痔ろうとは
肛門周辺の皮膚と直腸粘膜が繋がるトンネル(瘻管)が形成される状態を「痔ろう」(あな痔)と言います。
肛門周辺に膿が蓄積する「肛門周囲膿瘍」という疾患が長期化することで痔ろうに発展します。市販薬の使用による完治や自然治癒は見込めず、医療機関での治療が不可欠です。
非常に珍しいケースですが、長期間放っておいた痔ろうが「痔ろうがん」に進行する場合があります。このように、がんに進行する恐れがある点が、いぼ痔や切れ痔とは違います。
痔ろうの原因
肛門の歯状線には、肛門陰窩という小さな穴があり、ここに粘液を分泌する肛門腺があります。勢いの強い下痢などの際に、便が肛門腺や肛門陰窩に侵入し、感染・化膿が起こると、はじめに「肛門周囲膿瘍」が起こります。そして、肛門周囲膿瘍が慢性化することで、膿が肛門周囲の組織にトンネルを作りながら進んで、皮膚に穴を開け、そこから膿が排出されることで「痔ろう」に発展します。肛門周囲膿瘍の30~50%は痔ろうに発展すると考えられています。
他にも、クローン病や切れ痔、膿皮症、結核などによって、痔ろうが起こる場合もあります。
痔ろうの初期症状・なりやすい人
初期症状
後に痔ろうへと発展する可能性がある肛門周囲膿瘍によって、肛門周辺に発熱、強い痛み、膿、腫れ、しこりなどが起こるため、これらが痔ろうの初期症状と言えます。放っておくと、膿によって下着が汚れてしまいます。
肛門周囲膿瘍とは別の病気から痔ろうに進行する場合もありますが、いずれにしても膿の症状は起こります。
その後、トンネルができて痔ろうに進行すると、膿の症状だけでなく、肛門周辺のかゆみ、かぶれ、下着の汚れなどの症状も起こります。
また、痔ろうのトンネルは基本的に1つですが、慢性化し、感染を繰り返す場合や、クローン病によって痔ろうが起こる場合などにトンネルが複雑に枝分かれすることがあります。
なりやすい人
肛門括約筋の緊張が大きい方(便秘がちな方)、下痢気味の方、糖尿病などの基礎疾患で免疫力が落ちている方は、肛門周囲膿瘍や痔ろうを発症しやすいです。
痔ろうの検査・診断
問診にて症状を確認し、肛門の触診、視診、指診を実施します。指診では、医師が肛門に指を挿入し、肛門部と直腸の状態を確認します。また、肛門鏡を使ってより詳しく観察し、診断を下します。
MRI検査やCT検査なども追加で実施することで、痔ろうの種類や正しい場所を把握することが可能です。他にも、クローン病などの大腸疾患の恐れがあれば、大腸カメラ検査を実施する場合もあります。
痔ろうの手術
痔ろうは、いぼ痔や切れ痔とは違って、薬物療法では効果が不十分であり、完治のためには基本的に手術を行うことになります。当院では状態を正確に見極め、日帰り可能な単純痔ろうの治療を行っています。瘻管が複雑な形状になっている場合は提携先の医療機関をご紹介します。
瘻管切開開放術
肛門括約筋を切開してトンネル(瘻管)を開放する手術で、切開の傷が治るプロセスにおいて瘻管が自然に消えていきます。傷口は2~4ヶ月で治癒します。完治の可能性が高く、再発リスクも少ないです。
なお、肛門括約筋を広範囲で切開した場合などは、治った後に肛門の形状が若干変化したり、ガスや便が外に漏れたりする恐れがある点にはお気を付けください。通常は、肛門後方の浅い痔ろうに対して行います。
シートン法
瘻管の穴に輪ゴムや医療用の紐を通し、その輪を少しずつ縛ることで瘻管を肛門の方に手繰り寄せて切開する方法です。肛門括約筋に負担がかかりづらいというメリットがあります。
輪ゴムは1~2週間スパンで再度縛り直しますが、この際に痛みや違和感が少し起こります。治療期間は数ヶ月間となります。
くり抜き法(括約筋温存術)
瘻管をくり抜く治療法です。くり抜いて生じた傷口は縫い合わせて閉じます。深い痔ろうや前側にできた痔ろうが対象となります。
肛門括約筋に負担がかかりづらく、術後にガスや便が漏れることもありません。なお、再発リスクが少し高いというデメリットがあるため、シートン法や瘻管切開開放術と一緒に実施することがほとんどです。
痔ろうを放置する危険性
痔ろうは自然治癒することはなく、放っておくと膿が蓄積していき、腫れや痛みが長引きます。また、瘻管が複雑な形状になると手術の難易度が上がる場合があります。さらに、がんに進行するリスクがあるため、注意が必要です。
繊細な疾患ですので、受診を躊躇って長期間放置している方も多いと思います。当院では、そのような患者様にも最大限寄り添って診療しますので、お気軽にご相談ください。