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潰瘍性大腸炎・クローン病

炎症性腸疾患とは

大腸の粘膜が炎症を起こし、びらん、潰瘍などを生じる慢性の炎症性腸疾患の総称です。
腹痛や下痢、発熱などの症状を起こします。細菌やウイルスによる感染症をはじめとした腸疾患以外にも、全身性疾患の症状として生じている場合や、薬の副作用によって生じていることもあります。

炎症性腸疾患の原因

炎症性腸疾患は、原因が明らかな特異的炎症性腸疾患と、それ以外の非特異的炎症性腸疾患に大きく分けられます。

特異性腸炎

細菌・ウイルス・寄生虫による感染症、薬剤性腸炎、大腸憩室炎、虚血性腸炎、放射性障害など、原因が明確な炎症性腸疾患です。

非特異性腸炎

原因が明確でない炎症性腸疾患で、潰瘍性大腸炎、クローン病、ベーチェット病、単純性潰瘍などが代表的です。近年患者数が増え続けている潰瘍性大腸炎とクローン病は難病指定を受けていますが、適切な治療をして症状を抑えることができれば、健康な人とほとんど変わらない日常生活を続けることが可能です。症状や経過が似ていますが異なる病気であり、適した治療を受けるためには正確な診断が必要です。

潰瘍性大腸炎とクローン病の違い

潰瘍性大腸炎とクローン病は、病変が生じる場所に顕著な違いがあります。
潰瘍性大腸炎では大腸粘膜に炎症が生じ、直腸から連続的に炎症が起こる一方で、クローン病は口から肛門に至るすべての消化管で病変が生じ、腸管壁全体に炎症が生じます。
共通点としては、以下の4点が挙げられます。

  • 炎症性腸疾患に該当する
  • 消化管で長期的な炎症が生じる
  • 明確な発症原因が分からず、厚生労働省より難病に指定されている
  • 症状が起こる活動期と寛解期(症状が落ち着く時期)が交互に訪れる

症状や経過が似ていますが異なる病気であり、適した治療を受けるためには正確な診断が必要です。

潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎大腸の粘膜に炎症が生じ、びらんや潰瘍ができる慢性疾患です。症状が起こる活動期と、症状が安定する寛解期が交互に訪れますが、炎症を抑制する治療によって寛解期をなるべく長く保つことができます。明確な発症原因は不明で、完治できる治療法も存在しないため、国の難病に指定されていますが、医師による適切な治療によって、つらい症状を抑えることができ、日常生活を支障なく送ることが可能です。ただし、治療のコントロールが上手くいかないと悪化して重症化や様々な合併症を起こして手術が必要になることもあります。また腸粘膜の炎症が長期間続くと大腸がんの発症リスクが上昇してしまいますので、医師による診断と治療の重要性が高い病気です。
昨今の生活習慣の欧米化や、内視鏡検査の普及によって、潰瘍性大腸炎の患者さんは、近年増加傾向にあり、患者数は20万人を超えています。潰瘍性大腸炎は比較的若い人が発症し、30歳代にピークがありますが、どの年齢層でも発症します。最近では高齢になってから発症するケースにも遭遇するようになりました。
なお、経過や症状についてクローン病と共通する点もありますが、それぞれ別の疾患ですので、注意が必要です。正しい診断と病状に応じた適切な治療が欠かせないため、なるべく早めに消化器内科へご相談ください。

潰瘍性大腸炎の原因

TNF-αという体内物質が過剰に生成されることで、炎症が生じることが判明していますが、現時点で明確な発症原因は不明です。食事などの環境因子をきっかけにして免疫系の保護機能が働き過ぎることで炎症が生じると想定されています。また、血縁家族で発症することもあり、何らかの遺伝子の因子が相関していることも考えられます。

潰瘍性大腸炎の症状

  • 腹痛、しぶり腹
  • 下痢
  • 血便
  • 貧血
  • 発熱
  • 体重減少

発症初期は血便や下痢、腹痛が主な症状です。こうした症状が現れる活動期(再燃期)と症状が消える寛解期を繰り返し、進行すると貧血、体重減少、発熱の症状が現れます。

潰瘍性大腸炎で起こる合併症

潰瘍性大腸炎の炎症が悪化すると、腸の狭窄・閉塞に繋がる恐れがあります。また、大量出血や、腸が膨らんで中毒症状が生じる巨大結腸症などの深刻な状態となり、緊急手術を要することもあります。症状が落ち着く寛解期に治療を止めてしまうと重症化するリスクが高いため、長期的に治療を続け、こまめに検査を受けて腸の状態をチェックすることが大切です。なお、大腸以外で合併症が生じる場合があります。例えば、消化器では口内炎や肝胆道系障害などがあり、その他、皮膚、関節、眼などで合併症が生じる場合もあります。

潰瘍性大腸炎の検査と診断

問診で症状の詳しい内容や始まった時期、症状の変化、内服中のお薬、既往歴などを確認します。血便があった場合は、状態を確認して医師にお伝えいただけると診断の助けになります。大腸カメラ検査では大腸全域の粘膜を詳細に観察できますので、潰瘍性大腸炎特有のびらんや潰瘍といった病変の有無を確認し、病変組織を採取して病理検査に回すことで確定診断に繋げます。また、炎症の状態や範囲を把握することでよりきめ細かな治療も可能となります。

大腸カメラ検査

潰瘍性大腸炎の治療

炎症がある活動期(再燃期)では炎症をできるだけ早く解消するための治療を行い、状態が改善して寛解期に入ったらその状態をできるだけ長く維持するための治療を引き続き行っていきます。基本的に5-ASA製剤で炎症を抑えますが、炎症が強い場合にはステロイドを短期間用いて効果的に炎症を解消させます。他にも、免疫を抑制する免疫調節薬、抗TNF-α抗体である生物学的製剤、抗生物質などを使った治療を行うこともあります。
潰瘍性大腸炎は症状が起こる活動期と、症状が治まる寛解期が交互に訪れます。寛解期に治療を止めると重症化して活動期に移行するため、活動期だけでなく、寛解期にも適切な治療を続け、できるだけ長く寛解期を維持して悪化や合併症発症を防止する必要があります。

長期間の炎症で大腸がんリスクが上昇しますので、定期的な大腸カメラ検査で大腸粘膜の状態を把握することが重要です。

潰瘍性大腸炎は原因が不明であるため、大腸の炎症を抑えて症状を鎮め寛解に導くこと、そして炎症のない状態を維持することが治療の主な目標になります。腸の炎症を抑える有効な薬物療法があります。

薬物療法

炎症抑制薬が基本薬となり、炎症が強い場合には、ステロイドが用いられます。免疫調節薬(免疫を抑制するプリン拮抗薬、カルシニューリン阻害薬)、生物学的製剤である抗体製剤などが用いられることもあります。

炎症抑制薬

腸の炎症を鎮める働きがあります。寛解維持のために使用されることもあります。経口薬の他に坐剤や注腸剤もあります。

ステロイド

強力な炎症抑制作用を示す薬剤で、活動期に炎症を落ち着かせて寛解を導入する効果に優れています。経口薬の他に坐剤や注腸剤もあります。

免疫調整薬(プリン拮抗薬、カルシニューリン阻害薬)

潰瘍性大腸炎には過剰な免疫反応が関係していると考えられています。この薬は免疫反応を抑制するものです。活動期の症状を寛解に導く効果と、プリン拮抗薬では寛解を維持する効果、ステロイドの使用量を減らす効果があります。

抗体製剤

潰瘍性大腸炎では炎症を引き起こす体内物質が過剰に作り出されています。これらの体内物質の働きを抑える薬です。

日常生活での注意点

寛解期にも治療を続けることで、発症前と遜色ない日常生活を送ることが可能です。お仕事や学業、家事などに厳しい制限はありませんが、体に負担がかかることを控え、健康的な生活を意識することで、寛解期をなるべく長く維持することができます。

運動

激しい運動は控えてください。なお、軽い有酸素運動は意識的に取り組みましょう。

食事

寛解期に食事制限は必要ありません。なお、消化器に負担がかかるカフェインや香辛料などの刺激物の摂取、暴飲暴食などは避けてください。栄養バランスが整った食事を意識しつつ、食の喜びも大切にした健康的な食生活を送りましょう。

飲酒を避ける

寛解期では適量の飲酒であれば構いませんが、アルコールによる影響は明確に分かっていない部分もありますので、お酒の飲み過ぎには注意してください。

潰瘍性大腸炎と妊娠・出産

潰瘍性大腸炎になっても、寛解期を長く維持できるよう努めながら、妊娠・出産・授乳を行う方は多数いらっしゃいます。なお、妊娠・出産・授乳の期間も適切な治療を継続することが欠かせません。
妊娠が判明したからといってご自身の判断で治療を止めてしまうと、重症化して胎児や母体にとって多大な負荷となる治療を行うことになるので、妊娠が判明したら早めに当院までご相談ください。胎児になるべく影響を与えないようにしながら寛解期を維持するためには、通常の治療よりも繊細に管理することが重要なため、医師に指導の下で適切な治療を継続しましょう。可能であれば妊娠前に、かかりつけ医と妊娠が分かってからの治療の進め方を相談しておくことをお勧めします。

クローン病

クローン病大腸や小腸をはじめ、消化管全域の粘膜に炎症が発生して、びらんや潰瘍ができる慢性疾患です。病変のある場所によって小腸型、小腸・大腸型、大腸型という3タイプに分けられます。症状が起こる活動期と、症状が落ち着く寛解期が交互に訪れる点など、潰瘍性大腸炎と共通点があります。しかし、クローン病は潰瘍性大腸炎よりも大腸壁の深部まで炎症が広がる傾向にあり、腸管で重大な合併症が発生しやすいとされています。また、潰瘍性大腸炎の炎症は主に大腸で起こりますが、クローン病は口から肛門に至る消化管全域で発生します。さらに、炎症が広い範囲で起こることで栄養障害になることがあり、消化管を安静にするために栄養療法を行うこともよくあります。このため、潰瘍性大腸炎と正確に区別して診断を下す必要があります。
寛解期に治療を止めてしまうと重症化したり、炎症が長期化すると大腸癌発症のリスクが上昇してしまうため、継続的な治療が必要です。難病指定を受けていますが、適切に管理することで発症前と遜色ない日常生活を送ることが可能です。なるべく早めに消化器内科で確定診断を受け、適切な治療を受けましょう。

クローン病の原因

明確な原因は現時点で不明ですが、体内に侵入した異物を撃退する免疫システムに異常が発生し、症状が起こると考えられています。なお、潰瘍性大腸炎と同じく、TNF-αという体内物質が過剰に生成されることで、炎症が起こることが分かっています。

クローン病の症状

現れる症状は多岐に渡りますが、腹痛や下痢を起こすことが多くなっています。他に血便、発熱、体重減少、肛門の切れ痔、潰瘍、膿、粘血便などがあります。
また、痔ろうなどの肛門病変をきっかけに見つかることも珍しくありません。

  • 下痢
  • 腹痛
  • 体重減少
  • 発熱
  • 肛門の膿や潰瘍
  • 切れ痔
  • 痔ろう

クローン病で起こる合併症

クローン病の炎症は大腸壁の深部まで広がる場合があり、それに伴って多様な合併症が発生する恐れがあります。例えば、腸管の狭窄・閉塞、消化管に穴が開く穿孔、腸から皮膚や内臓まで伸びるトンネル状のろう孔、膿瘍膿、大量出血などに繋がる可能性があります。また、頻度は低いですが肛門がんや大腸がんも発症することもあります。
他にも、口内炎や肝胆道系障害などの消化器の合併症や、皮膚、関節、眼にも合併症が生じる場合があります。

クローン病の検査・診断

問診にて、症状の詳しい内容や始まった時期、症状の変化、内服中のお薬、既往歴などを丁寧に伺います。血便があった場合は、状態を確認して医師にお伝えいただけると診断の助けになります。その後、胃・大腸カメラ検査で特徴的な病変の有無を調べ、炎症の状態や範囲を確認します。また、検査中に病変組織を採取して病理検査に回し、確定診断に繋げます。症状や経過が似ている潰瘍性大腸炎との鑑別に加え、炎症の範囲や程度を把握して適切な治療に繋げるためにも大腸カメラ検査は不可欠です。

クローン病の治療

炎症の悪化には、摂取した食物が大きく関わっています。そのため、栄養療法はとても重要です。その上で炎症を鎮めて症状を緩和させ、再発を防ぐための薬物療法を行います。
症状が起こる活動期と、症状が治まる寛解期が交互に訪れます。寛解期に治療を止めると重症化して活動期に移行するため、寛解期でも治療を継続する必要があります。
薬物療法による治療を行い、激しい症状があれば炎症を抑制するお薬を短期的に使います。また、炎症が広い範囲に及んでいるなど消化管を休ませなければならない場合は、栄養療法を実施します。クローン病が重症化していたり、深刻な合併症が発生していたりする場合は手術を行います。

食事や栄養療法

クローン病の炎症は、食事の刺激によって重症化する場合があります。症状のない寛解期には、炎症を起こすきっかけになる食物を避けることを中心にした食事制限を行います。なお、重症化のリスクがあるといって必要以上に摂取を控えてしまうと、栄養不足になって病状や体調の悪化を招きます。
クローン病の活動期では栄養補給が困難になることや、消化管を休ませることが必要になるケースがよくあり、その場合は栄養療法を実施します。栄養療法では、鼻や口から補給する経腸栄養療法、点滴で高濃度の栄養輸液を補給する完全静脈栄養法といった方法があります。経腸栄養療法には消化の必要が無い消化態栄養剤・成分栄養剤、消化の過程を必要とする半消化態栄養剤などがあります。

薬物療法

主に軽症の場合は一部のステロイドや炎症抑制薬が用いられ、炎症が強い場合には、炎症抑制作用が強いステロイドが用いられます。
免疫調節薬(免疫を抑制するプリン拮抗薬など)、生物学的製剤である抗体製剤などが用いられることもあります。

炎症抑制薬

大腸に作用するサラゾスルファピリジン、大腸と小腸に作用するメサラジンを、患者様の病状に応じて使用します。活動期はもちろん、寛解期でも使用することがほとんどです。

副腎皮質ホルモン(ステロイド)

活動期に激しい炎症が生じている場合、炎症を抑制するステロイドを短期的に使用し、寛解期への移行を目指します。

免疫調整薬

免疫反応を抑えて寛解期への移行を目指します。ステロイドを使用できないケースなどに使いますが、すぐにお薬の効果が出ない場合があります。

抗体製剤

クローン病の炎症を引き起こすTNF-αという体内物質の働きを抑え、炎症の抑制を図ります。

外科的治療

内科的治療では十分な効果が得られず、社会生活が困難なときには手術が必要となります。
日本では、発症後5年で約30%、10年で約70%の患者さまが何らかの手術を受けています。
クローン病は病変部を取り除いても再発しやすいため、できるだけ腸を残すような術式がとられます。

日常生活での注意点

寛解期では発症前と遜色ない日常生活を送ることが可能です。学業や仕事に特段の制限はありませんが、体に負担がかかることを控え、健康的な生活を意識することで、寛解期をなるべく長く維持することに繋がります。
また、クローン病は食事による刺激で炎症が重症化する場合があり、刺激となる食べ物は患者様によって違いがあります。刺激となる食べ物の摂取を控えることで寛解期を長く保つことに繋がりますが、重症化のリスクがあるといって必要以上に摂取を控えてしまうと、栄養不足になって病状や体調の悪化を招くため、注意が必要です。

運動

過度な負担になる激しい運動は控えてください。なお、寛解期を長く保つため、軽い有酸素運動は意識的に取り組みましょう。

食事

消化吸収機能や病変が生じている場所などにより、炎症が重症化する食べ物に違いがあります。特定の食べ物を食べると重症化する場合は、その食べ物の摂取を控えて頂きます。

症状が起こっていれば、消化管に負担や刺激がかかりづらく、食物繊維や脂肪が少ない食事とすることが大切です。なお、必要以上に摂取を控えると、かえって栄養失調などのリスクがあるため、程々にしましょう。

飲酒を控える

アルコールによる炎症や症状への影響は明らかになっていないため、活動期はアルコールの過剰摂取は控え、程々に抑えましょう。

禁煙する

喫煙によって重症化や再燃が起こることが分かっています。クローン病と診断されたら禁煙するようにしてください。

クローン病と妊娠・出産

クローン病の方でも、寛解期を長く維持できるよう努めながら、妊娠・出産・授乳を行う方は多数いらっしゃいます。なお、胎児になるべく影響を与えないようにしながら寛解期を維持するためには、通常の治療よりも繊細に管理することが重要なため、医師に指導の下で適切な治療を継続しましょう。可能であれば妊娠前に、かかりつけ医と妊娠が分かってからの治療の進め方を相談しておくと、滞りなく治療内容を変更できるため、お勧めします。
かかりつけ医と相談する前に妊娠が判明した場合は、早急に今後の治療の進め方についてご相談ください。妊娠が判明したからといってご自身の判断で治療を止めてしまうと、重症化して胎児や母体にとって多大な負荷となる治療を行うことになるので、妊娠が判明したら早めに当院までご相談ください。