過敏性腸症候群とは
内視鏡検査などの腹部の検査では腫瘍や炎症などの異常が見つからないにもかかわらず、腹部などに多くの症状が数ヶ月以上持続する疾患を、過敏性腸症候群(IBS:irritable bowel syndrome)と呼びます。従来は過敏性大腸症候群と診断されていましたが、腸管の機能異常は大腸の他にも小腸とも関連があるため、昨今は過敏性腸症候群と診断されます。
比較的若い世代の女性に多く見られる傾向にありますが、年齢を問わず発症する病気で、約10%の人がこの病気であると言われています。
よくある症状としては、腹部膨満感、腹痛、吐き気、便秘や下痢といった便通異常などですが、めまいや頭痛などの消化器以外の症状が起こることもあります。
満員電車などで突然強い便意が起こって、慌てて下車してトイレに駆け込むと激しい下痢になるなど、日常生活に支障を及ぼしやすい症状が繰り返し現れる病気です。
病変が見つからないことから体質とあきらめてしまう方もいらっしゃいますが、消化器科の適切な治療で症状を解消できる疾患です。
過敏性腸症候群の症状
過敏性腸症候群は症状の特徴により分類され、腹部の張りや痛みとともに便秘が起こる「便秘型」、腹痛とともに下痢が起こる「下痢型」、便秘と下痢を繰り返す「混合型」、「分類不能型」の4つに大別され、排便すると症状が落ち着くことが大半です。
- 便秘型:腹部の張りや腹痛を伴う慢性的な便秘。やや女性に多い傾向があります。
- 下痢型:腹部の張りや腹痛を伴う慢性的な下痢。やや男性に多い傾向があります。
- 混合型:便秘型と下痢型を併発する
- 分類不能型:上記3つに該当しないもの
過敏性腸症候群の症状
主な症状は、腹痛や腹部不快感と便通異常です。腹痛は突然強い腹痛を起こす場合と、鈍痛が続く場合があります。腹痛後に便意を起こすことが多く、激しい下痢や強くいきんでも少量しか出ず残便感が続く便秘などの排便異常をともないます。下痢の場合には、排便後に症状が解消します。腹部膨満感のあるタイプでは、お腹の張りや腹鳴、無意識におならが漏れてしまうなどの症状を起こします。食事や緊張をきっかけに症状を起こすことがあります。また睡眠中に症状が起こることはありません。
また全身症状として、頭痛、疲労感、抑うつ、不安、集中力低下などが現れることもあります。
過敏性腸症候群の原因
過敏性腸症候群の明確な原因は不明ですが、過敏性腸症候群の病態には腸内細菌叢の変化や胆汁酸、ストレスなどの心理的異常、遺伝が関与すると言われています。また、感染性腸炎回復後に約10%が過敏性腸症候群になるとも言われています。これらが要因となって消化管ホルモンや中枢・末梢神経系などを正常にコントロールできなくなり、大腸・小腸の収縮運動が激しくなり、痛みを感じやすい知覚過敏状態に繋がるとされています。
過敏性腸症候群の症状は、例えば外出時や月曜日の朝に激しくなる特徴がある一方、休日前や就寝時は大きな症状が起こりません。本来、胃腸はストレスなどの精神的な刺激に敏感であり、大きなストレスを感じるほど、消化管にも悪影響が及びます。
そのため、過敏性腸症候群は、環境の変化や学校や職場の人間関係など、多くのストレスを抱えがちな現代人特有の疾患だと言えます。
過敏性腸症候群の検査
腹痛、下痢、便秘、膨満感といった過敏性腸症候群の症状は、他の消化器疾患でも起こる一般的な症状です。そのため、胃・大腸カメラ検査で腸管粘膜の状態を直接観察し、器質的な病変が無いことを確認して初めて過敏性腸症候群の診断が可能になります。
当院では楽に受けていただける大腸カメラ検査を行っていますので、安心してご相談ください。
内視鏡検査や血液検査で病変が見つからない場合に、過敏性腸症候群が疑われます。患者様から症状などについてくわしくうかがった上で、世界的に標準化されたRome基準にそって診断します。
RomeⅣ(R4)
- 腹痛などの症状が排便により軽快する
- 症状の有無によって排便頻度が変化する
- 症状の有無によって便の状態が変化する
6ヶ月以上前から症状があって、腹痛や腹部不快感が、最近3ヶ月の中の1ヶ月に少なくとも3日以上起こっていて、さらに上記2項目以上を満たしている場合に、過敏性腸症候群と診断されます。
また、上記の診断基準を厳密には満たさない場合でも、医師が症状などを総合的に判断して過敏性腸症候群と診断するケースもあります。特に、症状のある期間や頻度の条件に満たない場合でも、早期の受診が有効な治療につながるケースがよくあります。当てはまらないから受診しても意味がないと考えず、まずはご相談ください。
過敏性腸症候群の治し方
過敏性腸症候群は、命に関わる疾患ではありませんが、仕事・学業に多大な悪影響を及ぼす可能性がありますし、生活の質を大きく下げてしまいます。慢性的な症状を改善するためには時間もかかりますし、完治できる病気ではありませんが、ご自分の症状や起こるきっかけなどについてご理解が深まるに連れてコントロールできるようになっていきます。
過敏性腸症候群の治療では、患者様の状態やお悩みにきめ細かく合わせた薬物療法で症状を緩和し、食事や生活習慣の改善によって発症リスクを下げています。
生活習慣の改善
生活習慣の乱れによって過敏性腸症候群が起こります。
過敏性腸症候群の症状を解消するために、以下に注意して日々の生活を見直しましょう。
- 規則正しい生活を送る
- 3食の栄養バランスの取れた食事をとる。
- 食物繊維の多い食事をとる
- 暴飲暴食、夜間の大食を避け、脂質、カフェイン類、香辛料を多く含む食品やミルク、乳製品などを控える。
- 十分な休息と睡眠時間を確保する
- 適度な運動を行う
- アルコールを控える
- 趣味などリフレッシュできる時間を設ける
- 下痢型の場合、外出前に排便を行い、外出先ではトイレの場所をチェックする
薬物療法
プロバイオティクス
発酵食品、ヨーグルト、プロバイオティクスサプリメントなどに含まれるビフィズス菌や乳酸菌、酪酸金などのプロバイオティクスによって腸内細菌のバランスを改善することで腸内環境が正常化し、過敏性腸症候群の症状が解消する場合があります。
高分子重合体
便の水分バランスを調整することで排便回数と腹痛、便形状を改善し、下痢型過敏性腸症候および便秘型過敏性腸症候群の療法に用いられます。
消化管運動機能調整薬
消化管運動を亢進・抑制することで腹痛、腹部不快感などの症状を改善させます。
抗コリン薬
消化管の平滑筋弛緩作用により、腹痛などの消化器症状を改善させます。
セロトニン3受容体拮抗薬(5-HT₃拮抗薬)
体内神経伝達物質のセロトニンの作用を抑えることで過敏性腸症候群による下痢や腹痛などの症状を改善します。
粘膜上皮機能変容薬
便秘型の過敏性腸症候群に用いられ、便形状の改善、腹痛、腹部不快感、腹部膨満感などの症状を改善します。
抗うつ薬
一部の抗うつ薬は、腸の運動をコントロールする神経伝達物質に作用するため、過敏性腸症候群の症状に有効な場合があります。また、ストレスが原因の症状の改善に繋がる場合もあります。
抗不安薬
ストレスが原因の過敏性腸症候群の症状を改善する目的で用いられます。ストレスを感じやすい患者様に有効な場合があります。